給料の差し押さえ | 給与を差押えて債権を回収する

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給料の差し押さえを行うには

勤務先から労働者に対して支払われる給料も、何気なく支給を受けていますが、支給を受ける前までは労働者の勤務先に対する債権です。

債務者が給料を支給されている労働者であれば、その働いている勤務先に対して債権をもっていることになりますので、債権者が強制執行により、この給与債権を差し押さえて、本来債務者が受け取るべき給料を直接勤務先から回収することができます。

給料は債務者がその勤務先を退職しない限り、継続的に支払われるものですので、こちらの債権額に満ちるまで継続的に回収できるというメリットがあるかと思います。

しかし一方では、給料は債務者の生計上、欠かすことのできない資金ですし、債務者に家族がいればその家族の生計も考慮されなければなりません。

そこで、給料を全額差し押さえることはできず、法律により差し押さえることのできる範囲が定められています。

民事執行法152条には、「給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権」は、「その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。」と定められています。

この場合の給料とは、税金等を控除した残額、つまり手取りのことで、手取り金額の4分の3は差し押さえることができず、残りの4分の1だけを差し押さえることができるということです。

例えば、給料が20万円の場合、20万円の4分の1、つまり5万円を差し押さえることができます。

しかし、給料は人によって異なり、20万円の人もいれば、60万円の人もいます。

60万円の給料の人の場合、4分の1の15万円は差し押さえることができますが、残りの4分の3は45万円もあり、これではまだ回収に回せるだけの余裕があるのではないかと債権者としては納得できないところです。

そこで、上記条文の括弧書きにもあるように、4分の3に相当する額が、政令で定める額を超える場合は、その超えた分は差し押さえることができるとしています。

どういうことかといいますと、まず政令で以下のように支払期別(給料が支払われる周期ごと)に一定の額を定めています。

  • 毎月 ⇒ 33万円
  • 半月ごと ⇒ 16.5万円
  • 毎旬 ⇒ 11万円
  • 月の整数倍の期間ごと ⇒ 33万円×整数倍
  • 毎日 ⇒ 1.1万円
  • その他の期間 ⇒ 1.1万円×期間の日数

例えば、月給制の給料の額が60万円とした場合、60万円の4分の3は45万円になり、これは政令で定める33万円を超えることになりますので、この場合には、60万円-33万円の27万円を差し押さえることができます。

ある給料の4分の3が33万円になるためには、44万円(11万円+33万円)の給料がなければなりませんので、わかりにくい場合には、手取り総額が44万円以上なのか、以下なのかで判断したほうがわかりやすいかもしれません。

つまり手取り額が44万円以下であれば、単に4分の1しか差し押さえられませんが、44万以上の場合には政令の定める33万円を引いた残りすべてを差し押さえられるといった具合に考えるとよいかと思います。

ただし、このように基準が決められていても、債務者や家族の生活環境はさまざまで一律で割り切れるものではない場合もあります。

そこで、債権者または債務者は、差押禁止の範囲について不服がある場合、執行裁判所に対し変更を申立てることができます。

もし裁判所が生活状況などの諸事情を勘案し、変更が相当と判断すれば認められます。

なお、平成15年の民事執行法改正により、支払いを求める債権が以下の場合は、給料の2分の1まで差し押さえることができるようになりました。

  1. ① 夫婦間の協力・扶助義務に基づくもの
  2. ② 婚姻から生ずる費用の分担義務に基づくもの
  3. ③ 子の監護に関する義務に基づくもの
  4. ④ 親族間の扶養義務に基づくもの

これらに該当する債権を根拠として給料を差し押さえる場合、差押禁止の範囲が2分の1になりますので、例えば、20万円の場合は10万円を差し押さえることができます。

ただし、政令で定める基準額は通常の場合と同様に適用されます。

つまり、給料の2分の1に相当する額が33万円を超える場合には、33万円を引いた残りの金額を差し押さえることができます。