強制執行によって財産を差し押さえ債権を回収するには?

ヘッダー背景

強制執行とは?

さまざまな民事トラブルにおいて、裁判の判決内容や公正証書の権利内容を国家権力で実現させるのが強制執行です。

例えば、金銭を貸してもなかなか返済してくれないというとき、やむを得ず訴訟を起こし、その結果なんとか勝訴したとします。

これでやっと貸した金銭を回収できると喜んでいても、相手は一向に返済する気配がないといったこともあります。

それもそのはず、判決は紛争の勝ち負けを裁判所が判断するだけで、それだけでは金銭の支払いを実現するだけの力を持ちません。

もちろん、判決に沿って返済に応じるというケースもありますが、中にはそれでも支払いに応じないというケースも多いものです。

そこで、その判決の内容に強制力を持たせる手続きを行い、強制執行によって相手の財産を強制的に差し押さえ、金銭に換えて回収を図ることになります。

強制執行には、こうした金銭の返済を目的としたものだけではなく、それ以外にも例えば、賃貸契約が解除されたにもかかわらず、アパートなどの部屋に住み続ける住人を退去させるといった場合や、売買契約に基き代金を支払ったにもかかわらず商品を引き渡さないといったケースなどに対しても行われます。

その他、判決が出る前に、債務者に財産を処分されてしまい、強制執行の対象となる財産が何もないということにならないように、相手の財産を一時的に差し押さえたり、差し迫った損害を回避するために裁判所に仮の命令を行ってもらう仮差押え・仮処分というものもあります。

このサイトでは、おもに金銭の回収を目的とした強制執行について、早わかりできるようにざっくりとまとめてみました。

強制執行の手続き

裁判に勝訴し、なおかつ相手が支払わないからと言ってもすぐに財産を差し押さえることはできません。

相手にも財産権がありますので、それ相応の法的な手続きに従って強制執行を行わなければなりません。

強制執行を行う上で、最低限必要な書類

強制執行を行うには、以下の3点が必ず必要になります。

  • 債務名義
  • 執行文
  • 送達証明書

債務名義とは、強制執行を行うことのできる請求権を証明するもので、確定判決、仮執行宣言付判決、調停調書、和解調書、仮執行宣言付支払督促などがこれにあたります。

この債務名義の内容が、現時点で執行力があるということを証明するとともに、強制執行を行ってもよいという文言が執行文で、この文言を債務名義の末尾に裁判所から付与してもらいます。

そして、執行文が付与された債務名義を間違いなく債務者に送達したことを証明するものが送達証明書です。

送達証明書は、強制執行開始時点までに用意しておけばよいことになっています。

強制執行はどこに申し立てるのか

上記3点を用意したうえで、執行機関に申し立てを行います。

執行機関とは、各地域を管轄する地方裁判所にある執行裁判所および裁判所にいる執行官が担当する強制執行を行うことのできる国の機関です。

執行裁判所および執行官は、対象となる財産の種類によってそれぞれ分担が異なります。

執行裁判所
不動産、船舶、航空機、自動車、建設機械、債権などの財産
執行官
動産などの財産

また、どこの地方裁判所に申し立てを行うのかは、これも財産の種類によって異なります。

不動産
対象となる土地を管轄する地方裁判所
動産
対象動産がある現場を管轄する地方裁判所の執行官
債権
第三債務者の住所地を管轄する地方裁判所

強制執行の対象となる財産にはどのようなものがあるか

金銭の回収を目的とした場合、現金もしくは最終的に現金に換えることのできる財産に対して強制執行を行う必要があります。

債務者の財産のうち、大きく分けて、不動産、動産、債権などがこれにあたります。

それぞれの特徴についてみてみたいと思います。

不動産

土地や建物などの不動産は資産価値が非常に高く、また動産のように隠しにくいものなので、債権回収において確実性の高い財産と言えます。

しかし、不動産の強制執行は、対象となる財産価値が高いだけに、その手続きも慎重に行われますので、それなりの時間と費用がかかります。

また、不動産に抵当権などの担保権が設定されている場合は、担保権者が優先されてしまいますので、あらかじめ調べておく必要があります。

動産

不動産以外の財産で、例えば、宝石貴金属類、家電などの家財道具、裏書が禁止されていない有価証券、例えば株券、約束手形、小切手などがこれにあてはまります。

ただし船舶、自動車、飛行機などは特別な取り扱がなされているので注意が必要です。

動産の強制執行を行う場合、宝石貴金属や有価証券などは高価なものもありますので、強制執行の対象としては効果のある財産ともいえますが、家財道具などは、差し押さえて競売にかけても落札してくれる人も少なく、落札されても非常に少額なので、効果の低い動産と言えます。

また、債務者が生活する上で必要な生活品等、すべての動産を差し押さえられるわけではありませんので、注意が必要です。

債権

債権の強制執行の対象となるのは、相手方が第三者に対してもっている債権のうち、給与債権、預金債権、国債、貸金債権、代金債権などの金銭債権です。

例えば、給与債権であれば、相手方が勤務している会社に対してもっている債権を差し押さえて、会社から支払われる給与を強制的に回収するというものです。

勤務先の会社のように、相手方に対して債務を負っている者を第三債務者と呼び、その第三債務者の所在地を管轄する裁判所に差押命令の申し立てを行い差し押さえが行われると、相手方は勤務先に対して債権の取り立てはできず、第三債務者も弁済が禁止されます。

そして、差押命令が相手方に送達されて1週間が経過すると、第三債務者から直接債権を取り立てることができますので、非常に効果の高い財産と言えます。

しかし、給料の差し押さえにおいては、相手方の生活もありますし所得税の天引きなどがありますので、手取りの全額を回収することはできませんし、銀行口座を差し押さえる場合も、銀行に残高が無かった場合など空振りに終わってしまうということもありますので、あらかじめ十分調べておく必要があります。



これらの財産がどこにあるのかをあらかじめ調査しておくことは、強制執行を効果的に行う上で重要になってきます。

不動産であれば、一般に公開されている登記内容をみれば確認することができます。

しかし、動産の場合には強制執行開始時に実際に家屋の中に入ってみなければわかりませんし、債権の場合は第三債務者となる勤務先や銀行口座、貸付先などを債権者側が特定しておかなければ、強制執行を申立てることさえできません。

相手方に金銭を貸したり取引を行う前に確認しておくのも一つの手段ですが、なかなかすべての財産を把握するということは容易ではありません。

そのような場合には、債務者所有の財産を自ら開示させる「財産開示手続」を行うという方法もあります。