仮差押え・仮処分の手続き方法などについて

ヘッダー背景

仮差押え・仮処分とは?

通常の訴訟は判決が出るまでに時間がかかるものです。

その間に被告の財産が第三者にわたってしまったり、悪質な場合は財産を隠したり、名義を変えられたりといったこともありえます。

裁判に勝訴し、いざ強制執行を行おうと思っても、差し押さえる財産が無ければ、これまでの裁判にかかった時間と費用の無駄になりかねません。

そこで、判決が確定するまでの間、相手の財産を一時的に差し押さえたり、差し迫った危機や損害を避けるための制度として用意されているのが仮差押え・仮処分です。

通常の強制執行とは異なり、あくまで現状を維持するための仮の措置にすぎませんので、法律的には民事執行法とは別の民事保全法に規定されています。

仮差押え・仮処分の要件

仮差押え、仮処分はその性質上、債務者に察知されないように迅速に行わなければなりません。

したがって、その申し立てにあたっては、比較的簡単な手続きになっており、基本的に裁判所は申し立てる側の言い分だけを聞き、相手側の言い分は原則聞くことはありません(仮の地位を定める仮処分では相手からも話を聞く場合もあるようです)。

申し立てに際しては、以下の2つの要件を満たさなければなりません。

  1. ① 保全すべき権利・・・保全されるべき権利が確かに存在するということ
  2. ② 保全の必要性・・・財産隠しのおそれがあるなど、差し迫った保全すべき理由が確かに存在するということ

これらの要件は、基本的に裁判官の「一応確からしい」という心証があれば認められるようです。

担保の供与

このように、基本的に上記要件を満たせば比較的容易に仮差押え、仮処分を申し立てることができますが、このことは、例えば債権者が虚偽の要件を述べ立てたり、安易に申し立てたりする危険性をはらんでいます。

こうしたことを防ぐために、もし上記2つの要件の立証が不十分だと裁判所が判断した場合は、申立人に担保(保証金)を供与するよう指示されます。

これは、安易な申し立てを抑止するためと、万が一、虚偽だとわかった時に、債務者が受け取るべき損害賠償にあてるためです。

担保の額は、証拠が少ないと多めに、証拠が多いと少なめに算定される傾向にあり、おおよそ債権額あるいは、争点となっている物の価格の10%~30%が目安です。

担保は、金銭を法務局(供託所)に供託するか、金融機関の保証により行われます。

仮差押えについて

仮差押えで保全する権利は、金銭債権などの請求権です。

通常の差押えは、執行文の付与が必要ですが、仮差押えでは執行裁判所の命令によりただちに執行力が生じます。

ただし、仮差押えは一時的な応急措置なので、その執行力の継続期間も短く、命令が債権者に送達されてから2週間です。

また、債務者の財産隠し等に対処する措置なので、債務者に知られないうちに執行力を生じる必要があるため、通常の強制執行の場合に債務名義や承継執行文などを債務者に送達しなければならないのに対し、仮差押えでは命令が送達される前に執行力が生じます。

仮差押えの対象となる財産には、不動産、動産、銀行預金、給料などの債権があります。

不動産や債権の執行手続きは裁判所の職権で行われ、動産の場合は執行官自らが差押えに行くことになっており、仮差押命令が送達されたら債権者から動産執行の申し立てを行います。

なお、仮の執行であるため、差し押さえた対象物を金銭に換えることはできません。

仮処分について

仮処分には大きく分けて、「係争物に関する仮処分」と「仮の地位を定める仮処分」があります。

係争物に関する仮処分

例えば、売買契約において、相手に物を売ったが代金を支払ってくれないということで係争しているケースでは、係争中に相手が破産宣告を受けてしまうということもあります。

このような場合、将来的な強制執行の権利を保全するために、物を処分しないように譲渡禁止の仮処分が認められています。

係争物に関する仮処分では、保全するべき権利は、金銭以外の特定物の引き渡しなどを目的とする請求権になります。

係争物の引き渡しを求める際に、将来、強制執行が行えるように、相手が係争物を処分したり、変更を加えることを防ぎ現状を維持するという必要性がある場合などがこれにあたります。

仮の地位を定める仮処分

例えば、雑誌などに自分のプライバシーや名誉を棄損しそうな記事が掲載されそうなとき、その発行を差し止める仮処分を申請するということがあります。

このような裁判終了を待っていては差し迫った危機や損害を回避できないという場合、勝訴後に得る権利と同等の権利を確保するのが仮の地位を定める仮処分です。

この他にも、建物の明け渡し、賃金の支払い、労働者の地位保全など、相手と争いのある権利または法律関係に対し、保全を求めるものです。

保全命令の申し立ての手続き方法

申請場所

現在、訴訟が係属している裁判所、または仮差押えの目的物、係争物を管轄している裁判所。

債権の場合は、第三債務者の所在地を管轄する裁判所。

申請手続き

「仮差押命令申請書」もしくは「仮処分命令申請書」に、「保全すべき債権」と「保全の必要性」を記入し、2通分(本人分と相手文)用意します。

そして、記載した「保全すべき債権」と「保全の必要性」を疎明(裁判官に一応確からしいと思わせる)する書面を添付します。

疎明する書面は、証明ほど厳格ではなく、例えば契約書や支払期限が過ぎても支払いがないということを疎明する書面や証人の証言などです。